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神戸地方裁判所 昭和32年(わ)897号 判決

被告人 高畑昇

大一四・一二・六生 会社員

上田保爾

大五・三・一五生 販売員

主文

被告人高畑昇を

判示第一の罪につき懲役六月に、

判示第二の罪につき懲役一年に、

被告人上田保爾を懲役一年に、

各処する。

被告人高畑昇に対し未決勾留日数中三〇日を判示第一の罪の刑に算入する。

被告人上田保爾に対しこの裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

押収してある輸出申告書三八通(証第一乃至七号、第八号の一乃至三、第九乃至三六号)の裏面の各虚偽記載部分はいずれもこれを没収する。

訴訟費用は、全部被告人両名の各負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

第一、被告人高畑昇は、昭和二五年五月頃から外国為替銀行(昭和二九年四月同年法律第六七号施行後は外国為替公認銀行)であるアメリカ銀行神戸支店に勤務し、昭和三〇年五月以降は、輸出認証係責任者として、輸出者より提出される必要書類を審査し、輸出貨物代金の決済方法等が適法であることを確認のうえ、輸出申告書裏面の銀行認証書を作成する職務を担当し、外国為替及び外国貿易管理法第六九条第三項に基いて、法令により公務に従事する職員とみなされているものであるが、昭和三一年八月二二日神戸簡易裁判所において、道路交通取締法施行令違反罪により科料五〇〇円の言渡を受け、この裁判は同年九月六日確定したところ、その確定前である

一、昭和三一年四月二三日、神戸市生田区海岸通一番地所在の右アメリカ銀行神戸支店において、輸出者美木晃が、銀行の輸出認証を受けるため、五枚の輸出申告書用紙裏面の各「輸出者の宣誓」欄にその氏名をローマ字でペン書きし、さらに各所用欄にそれぞれ買主が朝鮮京城市所在のサンワ・トレーデング・カンパニー、仕向地が南朝鮮(釜山)、輸出品目が奇応丸一一、〇〇〇箱、鉛筆三二〇グロス、化粧クリーム一三〇ダース、ポマード三六ダース、ハンドバツグ三六ダース、ハンドバツグの口金四〇〇個、その売買建価(積込み渡し(FOB)価格)が一、七〇七ドル、輸出前受代金の未使用残高が三、〇〇〇ドルである旨等を英文タイプで記入して提出した際、右各輸出貨物に対する輸出代金が未だアメリカ合衆国通貨によつて支払われてはおらず、その代金の決済が標準決済方法によつて行われるものでないことを知りながら、直ちにその場で、行使の目的をもつて、右各輸出申告書用紙裏面の「銀行の証明」欄に英文でアメリカ銀行と刻した右支店備付のゴム印を押捺したうえ、その下に自己の氏名をローマ字でペン書きし、もつて、その職務に関して、認証事項欄記載の各輸出貨物に対する代金の決済がいわゆる代金前受の標準決済方法によつて行われるものであることを証明する旨の内容虚偽の銀行認証書五通(うち一通は証第二号)を作成し、

二、次いで、本判決末尾添付の一覧表第一記載のとおり、同年五月八日から八月一五日までの間、一一回に亘り、いずれも前記アメリカ銀行神戸支店において、同表輸出者欄記載の各輸出者が、銀行の輸出認証を受けるため、各五枚の輸出申告書用紙裏面の「輸出者の宣誓」欄にその氏名をローマ字でペン書きし、さらに各所用欄に同表認証事項各欄記載のとおりである旨等を英文タイプで記入して提出した際、右各輸出貨物に対する輸出代金が未だアメリカ合衆国通貨によつて支払われてはおらず、その代金の決済が標準決済方法によつて行われるものでないことを知りながら、いずれも直ちにその場で、前同様の方法で、その職務に関して内容虚偽の銀行認証書合計五五通を作成し、

第二、被告人高畑昇は、本判決末尾添付の一覧表第二記載のとおり、同年一二月七日から翌三二年一月二五日までの間、一四回に亘り、いずれも前記アメリカ銀行神戸支店において、同表輸出者欄記載の各輸出者が、銀行の輸出認証を受けるため、各五枚の輸出申告書用紙裏面の「輸出者の宣誓」欄(同表番号7以下は「輸出者の署名」欄)にその氏名をローマ字でペン書きし、さらに各所用欄に同表認証事項各欄記載のとおりである旨等を英文タイプで記入して提出した際、右各輸出貨物に対する輸出代金が未だアメリカ合衆国通貨によつて支払われてはおらず、その代金の決済が標準決済方法によつて行われるものでないことを知りながら、いずれも直ちにその場で、前同様の方法で、その職務に関して内容虚偽の銀行認証書合計七〇通を作成し、

第三、被告人上田保爾は、昭和二五年八月頃から前記アメリカ銀行神戸支店に勤務し、同三〇年四月頃以降は、輸出認証係として、輸出者より提出される必要書類を審査し、輸出貨物代金の決済方法等が適法であることを確認のうえ輸出申告書裏面の銀行認証書を作成する職務を担当し、前示外国為替及び外国貿易管理法の条項に基いて、法令により公務に従事する職員とみなされているものであるが、

一、昭和三一年六月二六日、前記アメリカ銀行神戸支店において、輸出者権藤こと権道栄が、銀行の輸出認証を受けるため、五枚の輸出申告書用紙裏面の各「輸出者の宣誓」欄にその氏名をローマ字でペン書きし、さらに各所用欄にそれぞれ買主が朝鮮京城市所在のサンワ・トレーデイング・カンパニー、仕向地が南朝鮮(釜山)、輸出品目がセルロイド製櫛三〇〇ダース、撞球用チヨーク三〇〇ダース、その売買建値(積込み渡し(FOB)価格)が合計一一四ドル九〇セント、輸出前受代金の未使用残高が一一四ドル九〇セントである旨等を英文タイプで記入して提出した際、右各輸出貨物に対する輸出代金が未だアメリカ合衆国通貨によつて支払われてはおらず、その代金の決済が標準決済方法によつて行われるものでないことを知りながら、直ちにその場で、行使の目的をもつて、右各輸出申告書用紙裏面の「銀行の証明」欄に英文でアメリカ銀行と刻した右支店備付のゴム印を押捺したうえ、その下に自己の氏名をローマ字でペン書きし、もつて、その職務に関して、認証事項欄記載の各輸出貨物に対する代金の決済がいわゆる代金前受の標準決済方法によつて行われるものであることを証明する旨の内容虚偽の銀行認証書五通(うち一通は証第二八号)を作成し、

二、さらに、本判決末尾添付の一覧表第三記載のとおり、同年七月一四日から同年一二月三一日までの間、九回に亘り、いずれも前記アメリカ銀行神戸支店において、同表輸出者欄記載の各輸出者が、銀行の認証を受けるため、各五枚の輸出申告書用紙裏面の「輸出者の宣誓」欄(同表番号8以下は「輸出者の署名」欄)にその氏名をローマ字でペン書きし、さらに各所用欄に、同表認証事項各欄記載のとおりである旨等を英文タイプで記入して提出した際、右各輸出貨物に対する輸出代金が未だアメリカ合衆国通貨によつて支払われてはおらず、その代金の決済が標準決済方法によつて行われるものでないことを知りながら、いずれも直ちにその場で、前同様の方法で、その職務に関して内容虚偽の銀行認証書合計四五通を作成し

たものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(被告人並びに弁護人の主張に対する判断)

被告人両名並びに各弁護人は、被告人らの認証にかかる本件各輸出貨物については、その代金額に相当するアメリカ合衆国通貨が、ニユーヨークのフエザーコムス社から神戸市在住のロイ・スミス宛に送金されており、かつ、右貨物の各輸出者は、いずれも右ロイ・スミスからその輸出方の委託を受けていたものであるから、右各輸出貨物に対する代金の決済は、いわゆる代金前受の標準決済方法によつて行われていたものというべく、したがつてこれを適法なものとして認証のうえ作成した本件各銀行認証書は、いずれもこれを内容虚偽の文書ということはできないと主張するので考えるに、本件に顕われた各証拠を総合すると、本件各貨物の輸出認証前一年以内のときに、ニユーヨークのフエザーコムス社から神戸市在住のロイ・スミス宛にほぼその代金額に相当するアメリカ合衆国通貨が送金されたこと、被告人らの勤務していた前記アメリカ銀行神戸支店において右通貨を買取つたうえ、右ロイ・スミスに対して外貨買取済証明書を発行して交付したこと、その後この証明書が、被告人高畑昇、同上田保爾によつて買主の氏名住所、仕向地、商品名各欄の記載を朝鮮向輸出用に訂正もしくは書換えられ、ロイ・スミス及び鷹取藤吉郎名義の白紙委任状を添付のうえ、被告人高畑昇の手を通じて転輾譲渡されたこと、本件各輸出者がこれを入手したのち、輸出貿易管理令第三条、同規則第四条所定の証明書類として輸出申告書に添付して前記アメリカ銀行神戸支店に提出し、輸出の認証を求めたことをそれぞれ認めることができるけれども、いわゆる代金前受の標準決済方法とは、貨物の輸出の認証前一年以内に、指定受領通貨表示の対外支払手段(アメリカ合衆国通貨はこれに当る)により、右貨物に対する代金を外国から受領する方法をいう(昭和二九年大蔵省令第七一号による改正後の標準決済方法に関する規則第三条、附表第一、1(二))のであつて、何人かが、右期間内に代金額に相当するアメリカ合衆国通貨を外国から受領していた場合においても、これが、輸出の認証を受けようとする当該貨物に対する代金たる性質を有しないときには、標準決済方法による代金の決済が行われたものということができないことは、外国為替公認銀行による輸出認証制度が設けられた趣旨に徴しまことに明らかなところであり、これを本件についてみれば、ニユーヨークのフエザーコムス社からロイ・スミス宛に送金された前記アメリカ合衆国通貨は、いずれも同人から右会社に対して輸出すべき婦人用髪止めの前受代金として送金されたものであつて、被告人両名の認証にかかる本件各輸出貨物に対する代金たる性質を有しておらず、かつ、右各貨物については、その他外国からなんらの代金も受領されていないことは証拠上明らかであるから、本件輸出貨物に対する代金の決済は、いずれもいわゆる代金前受の標準決済方法によつて行われていたものと認めることはできない。それ故、被告人両名及び各弁護人の前記主張は採用できない。

なお、弁護人らは、被告人両名は本件犯行当時から前記のような見解を懐き、これを標準決済方法に該当するものと確信していたのであるから、本件については犯意を欠いでいたものである旨主張し被告人らも同趣旨の弁解をするが、前示各証拠を総合して認められる被告人両名の職歴、前記外貨買取済証明書の記載を訂正しもしくは書換えた経緯、本件に関し犯罪の捜査が開始せられたことを聞知した後の被告人らが関係者は勿論捜査機関に対してまでも事件のもみ消しを策動した事跡等に徴し、被告人らの弁解はたやすく措信し難いので、右主張も採用しない。

(法令の適用)

法律に照らすと、被告人高畑昇の判示第一の各所為は刑法第一五六条第一五五条第一項に該当するところ、これらの罪と判示第一の事実冐頭掲記の確定判決を受けた罪とは同法第四五条後段の併合罪であるので、同法第五〇条に則り未だ確定判決を経ない判示第一の各罪につき処断することとなるが、右は同法第四五条前段の併合罪であるので同法第四七条本文第一〇条により最も重いと認められる判示第一の二の3の罪の刑に法定の加重をし、情状憫諒すべきものがあるので同法第六六条第七一条第六八条第三号に従つて酌量減軽し、その刑期範囲内で同被告人を懲役六月に処し、

同被告人の判示第二の各所為は同法第一五六条第一五五条第一項に該当するが、右は同法第四五条前段の併合罪であるので同法第四七条本文第一〇条により最も重いと認められる判示第二の12の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で同被告人を懲役一年に処し、

被告人上田保爾の判示第三の各所為は同法第一五六条第一五五条第一項に該当するが、右は同法第四五条前段の併合罪であるので同法第四七条本文第一〇条により最も重いと認められる判示第三の二の5の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で同被告人を懲役一年に処し、

被告人高畑昇に対し同法第二一条を適用して未決勾留日数中三〇日を判示第一の罪の刑に算入し、被告人上田保爾に対し、諸般の情状を斟酌のうえ同法第二五条第一項に則つて二年間右刑の執行を猶予することとし、押収してある輸出申告書三八通(証第一乃至七号、第八号の一乃至三、第九乃至三六号)の各虚偽記載部分は、それぞれ判示第一乃至三の各虚偽公文書作成行為より生じたものであつて、何人の所有も許さないものであるから同法第一九条第一項第三号第二項によりいずれもこれを没収し、なお、訴訟費用は、刑事訴訟法第一八一条第一項本文を適用して被告人両名にそれぞれ負担させることとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 石丸弘衛 大西一夫 藤原弘道)

(一覧表 略)

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